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現代語訳『三州奇談』19 「怪異流行(巻之四)」

現代語訳『三州奇談』その19 「怪異流行(巻之四)」

 

堀麦水による『三州奇談』は、近世中期に成立した加越能の奇談集である。

今回はその19「怪異流行」(巻之四)の現代語訳である。

 

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【訳】

元文元年(一七三六)中秋の良夜、午前一時頃、金沢・材木町の塩屋某は気心の知れた三人で連れ立って、月見がてら、紺屋坂下堂形前の空き地にやってきた。

 

そこで怪しいことが起こったのだ。背の高い三人は裸になり、下帯だけになり、衣類や大小の刀を帯でくくって、どれも頭の上にのせて、手を組んでここは浅い、あそこは深いと、徒歩で渡れるところを探すようすで、草の生えたところを手探りで歩いていたのだ。

 

ここは流れが急で渡り難い、帰ろうという者があれば、また俺に任せろという者もいた。とうとう水は肩を越すぞという声がして、ついには藩老奥村氏の馬場の土手に登って、身体を拭いて衣類を着けて、馬場のなかを五、六往復もして、小将町の方へ行ったのである。

 

実に珍しくめったにない奇異な夜行であったことだ。

考えてみると、これは物好きなものが、野狐に命じてやらせたものだと思う。

 

 

 

また最近の話だが、彦三町に内藤善太夫という人があった。この屋敷の腰元でたよという者が、同じ仲間と枕を並べて寝て居たところ、見慣れない女が来て散々に恨み言を言って、そのあと髻をつかんで組み付いてきた。何とか目を覚ましてみると、髪は打ち乱れ、櫛も笄もあたりに散らばっていた。

夢とはいえどもいまもって覚えのない難儀だと仲間にも語り、お互い慰めあって、不可解なことがあったと人々にも話をした。

 

 

同じ仲間にたまという女がいて、内緒のことだけどといって話しだした。恥ずかしいこと限りないが、私がこの家の男何某と密通していることが、本妻のところへ漏れたのだろうか、いつのころからか毎晩私の夢に出てきてこのことを恨み、おまけに殴りかって来たのだが、それは二月ほども続き、一夜たりとも欠けることはなかった。

 

ところが昨夜ばかりは妻女が夢に来なかったので、快く寝入ったと思っていたのだが、そこに妻女があらわれ、さては私の霊が誤ってあなたのもとに来たのだろうと、涙ながらに話した。生きているものの怨霊が取り違えたのか、また不思議なことである。

 

 

思うに昔の本にでてくる幽霊は、必ず申し申しと呼ぶ。これはたしかにそれだと知っていても、昔は物事を丁寧にすることを優先したからだろう。今の人の軽率なのは人間界のことのみ思っていたが、さては幽冥にもこの風が移ってしまったのだろう。

 

 

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以上が「怪異流行」(巻之四)の現代語訳である。

狐に化かされたような話があり、生霊も出て来た。いずれも日常生活の中から拾いあげた怪異である。

 

「昔の本にでてくる幽霊は、必ず申し申しと呼ぶ」以下は、作者の言葉であろう。昔は丁寧で、今は軽率なのは、人間だけでなく幽霊も同様になってしまったといっているところが、妙に現実的なことのように感じてしまう。