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現代語訳『三州奇談』 その15「夜行逢怪」

現代語訳『三州奇談』 その15「夜行逢怪」

 

堀麦水の『三州奇談』は、近世中期に成立した加越能の奇談集である。今回はその15「夜行逢怪」(巻之三)の現代語訳である。ここは不気味な女の長い首の話がいくつも出てくる。

 

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「訳」

奥村家の家士・山下平太の従者に孫兵衛という者がいた。人より力が強く、勇猛であり、また争論を好んだ。町中の祭礼のときには傍若無人であったが、多くの人が彼の無頼を知っており避けて遠ざかったがために、乱暴を働くことが多かった。

 

ある真夜中に、小立野の天神坂を通ったところ、一陣のなまぐさい風が起こり、背丈七尺ほどの黒衣の法師が、突然現れた。孫兵衛は大胆・無法の者だったので、近くの小石をとって打ちつけると、かの法師は走り寄ってむんずと組合い、上になり下になりして戦ったが、法師の力が強く、全身鉄砥石のようであった。

 

孫兵衛は次第に疲れて、何とかしようとしたが、小刀ももたず窮地に陥った。そのとき喉と思われるところがすこし柔らかかったので、ここぞと強く食いついた。妖怪は噛みつかれてちょっとひるむところを取り押さえ、曲者を捕まえたぞと叫ぼうとしたが、どうしても声が出なかった。そうこうするうち、法師ははね返して逃げてしまった。

 

孫兵衛はいっとき気絶していたが何とか起きだし、水などを飲んで、主人の家に帰りついた。身一杯がんばったので、全身血だらけで、毛髪は一本もなくなっていた。その後いつまでも頭の毛が生えないので、奉公をやめ、悪事を堅く慎んで、鉢巻をして門渡りをしており、今でも生きている。あの法師に出会ったのは元文年中(一七三六~一七四〇)である。

 

 

また宝暦二年九月十九日のこと、猪口平蔵という人が、長町の今枝氏の下屋敷の前で、大きな女の首に出あった。雨あとの月が輝き、木の葉の露が輝く中から、電光振動し首の長さ六七尺ばかりで、にこにこ笑って行き過ぎたという。

 

また矢島主馬が岡田氏の前を通ると、塀の上に六尺ばかりの女の首があった。再び提灯を灯して立ち戻ったが、消えていなくなっていたという。

 

さらにある侍が夜中に堂形前で、六尺ほどの女の首と出あったが、これは電光もなくひっそりして声もなかった。行き違いざまに息を吐きかけたが、その跡は黄色くなり、気分も悪くなった。不破玄澄という医者にかかったが、益気湯を使って治ったという。

 

またある侍が火で光る首が足元に来たのを足で蹴ると、足が焼けただれて痛んだ。ある人が伽羅を燃やして燻すとよいというので、ニ三日そうしたら毒気がなくなって治った。

 

このようなことは諸国に多くある。怪物は一つなのか、別物なのか不明である。古狸の妖怪のほか、使い古した物が妖怪ととなり、このようになることがある。またある人がいうには、夜中にこのように化ける鳥があるという。まったく万物のことわりを極めることはできない。

 

 

 

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「夜行逢怪」(巻之三)には首の長さ六、七尺もある女の話が四つも出てくる。ニコニコ笑って行き過ぎた首があり、すれ違いざま息を吹きかけられ具合が悪くなった侍もいる。

金沢市橋場町に不破医院があるが、ここに出て来た不破玄澄という医者の子孫である。

これも奇想天外な出来事と現実の話がまじりあった奇談なのである。