3.『三州奇談』の文学面からの研究
文学面からの研究は、主として泉鏡花の研究者によってなされています。『三州奇談』は、鏡花研究には欠かせない書のひとつとなっています。
この分野では、小林輝冶の「鏡花と三州奇談」(「金沢大学語学文学研究」、「北陸大学紀要」)があります。
また秋山稔の『転成する物語』(梧桐書院二〇一四)があり、そこでは「『三州奇談』の素材を換骨奪胎して、多くの固有の物語を創り上げた泉鏡花の作品の成立背景を検証」しています。
このように文学分野からの研究はいくつもなされていますが、奇談ということにより歴史学などの面からはあまり手がつけられていません。
奇談にでてくる怪異や伝承から歴史を探りだして読む方法は、先行研究にはないようです。
このような方法は金沢大学の黒田智教授のゼミで取り上げられました。
私はそこに参加して『三州奇談』の面白さにのめり込んだのです。
『三州奇談』を読む醍醐味は、怪異の面白さにふれることは勿論ですが、怪異譚を読み込むことによって、そこに隠された加賀藩の史実を探りあてることにあります。
奇談に出てくる事件は、調べてみると『加賀藩史』にいくつも記載されていることがわかりました。奇談のなかに史実が埋め込まれているのです。
麦水が仕込んだ虚実をどうとらえるか。これは近世史の世界へ私たちをいざなう隠れた入口のひとつということができます。
どれも一話読み切りの話であり、どこからでも読み始めることができます。現代語訳と原文と合わせ読めばさらに理解が深まります。
『三州奇談』は江戸時代に書かれたもので、いくつかの写本があります。
原本は崩し字ですが、活字に翻刻され出版された『三州奇談』があります。現在は絶版となっており、古書を検索しているとたまに引っ掛かり、値段は5千円ほどとなっています。
『三州奇談』は、加賀藩の各地域に伝承する奇談集です。
とくに石川・富山両県の年配の人々にとっては、子供のころ遠足や鮒釣りを楽しんだ場所が奇談の舞台となっているので、親しみを覚えるでしょう。
昭和三十年代などに、歴史的な風景は大きく変わったため、それ以前の姿を知らない人には、理解しづらいところがあるかと思いますが、知っている人にとってはたまらない内容です。
『三州奇談』の149話は、私にとって奇談と郷土史の「無尽蔵の宝庫」に思え、これからも読み解く作業を続けてゆきたいと考えています。
あとに続く人々が『三州奇談』の研究をする際の一助になるかもしれないと思っています。
郷土の歴史伝承文化を研究する際の、あらたな視点を求めるテキストとして、歴史学・文学・民俗学などのジャンルを問わず、『三州奇談』がさらに広く深く読まれてゆくことを期待しています。
『三州奇談』とは何か、なぜそれを読んでいるのかについて述べてきました。アウトライン紹介はこれで終わりとします。
このあと、通常のブログの合間に紹介していく各話の現代語訳を読むときの参考になれば幸いです。