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金沢と『三州奇談』の雑記帳   ki-dan.com

金沢に江戸時代の『三州奇談』 その1

『三州奇談』という江戸時代の書があります。

 

これは、加賀・能登越中に伝わる不思議な話を集めた奇談集です。
石川県図書館協議会から翻刻版が出版されています。

この書を読んでいると、遠く江戸時代の金沢に住んでいるかのような、不思議な感覚になります。とりこになってしまうほど、面白い本です。

 

この本は現在では、とりあげられる機会が少なくなっているようですが、地域の奇談を集めたこの本は、忘れられようとしている故郷の歴史文化を伝える貴重な書物であると考えます。

 

この書のモチーフを生かして泉鏡花が小説に取り入れており、柳田国男もまた興味をもってとりあげています。

そこで、このブログで『三州奇談』の各話の現代語訳などを順次掲載して、その面白さを伝えていこうと思います。


その手はじめとして、そもそも『三州奇談』とはいかなる本であるのかを、3回にわたって紹介し、アウトラインを紹介することにいたします。

 

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1. そもそも三州奇談とはどんな本か 

『三州奇談』は編著が金沢の堀麦水による加賀・能登越中の奇談集です。

ここには、地域のかたよりはすこしありますが、石川県と富山県の各地域の話が網羅されています。

全国各地には興味深い奇談の数々が残されていますが、金沢には『三州奇談』が語り継がれたのです。

ここには、この地域独自、固有のものがある一方、ほかの地域と共通のモチーフの話も含まれています。


意外に思われるかもしれませんが、私ははじめは奇談集『三州奇談』を、歴史学の研究対象として読んでいました。

読み始めて10年近くになり、これについて調べたものが一定の分量に達しましたので、これから読む奇談好きの方の一助になろうかと思い、まとめてみました。

 

『三州奇談』の成立は宝暦から安永年間、十八世紀半ばすぎから後半です。

本編は正編99話、続編50話で、それぞれ一話読み切りの形式となっています。


編著の堀麦水(1718~1783)は、金沢・竪町の蔵宿に生まれ、俳諧師・随筆家として活躍し、江戸・京坂などにも流寓しています。
当時としては変化にとんだ、自由で知的な人生を送った人物といえましょう。いわゆる地方知識人だったのです。


さらに麦水は、加賀藩主の将棋の師匠として、席を同じくする機会もあり、家老との交流もありました。


『三州奇談』は、その名のとおり奇談奇聞集ですので、狐狸、天狗などの妖怪や化け物などを語る異聞を集めています。
そこには今に伝わる地域の伝承・伝説がふくまれています。


しかも、注意深く読んでいくと、話の中に歴史・史実が組みこまれており、単なる奇談ではないことがわかります。


特筆すべきは、ほとんどすべての話に、地名と年号が記されていることなのです。ここからわかる、特定された地域と年代によって、歴史面からの研究が可能となるのです。

 

『三州奇談』には、もととなる種本があったようですが、それを増補したのが堀麦水だと理解してよいでしょう。

 

『三州奇談』の内容は、「荒唐無稽のことと思われるが、それは麦水自身のねつ造ではなく、そうした奇説怪談が民間にあったのを採集したことに、本書の価値と存在の理由がある」(『石川県史』日置謙)との評があります。


こうしたところから、近世知識人として麦水がみた世界、すなわち近世の人々がなにをみて、それについてどのように考えたかを、そこから読みとることが可能となります。


また、当時の人々が妖怪の出現をどのようにみて、感じとり、解釈していたかも推し測ることができるのです。

 

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『三州奇談』についての1回目の紹介は、ここまでとします。
次回に続きます。